STELLA (1)

【今から3年前 フィオナ12歳、ウォルト14歳】
01ウォルト:ごらん、フィオナ。今夜は空気が澄んでいて、いつもより星が綺麗に見えるよ。
02フィオナ:わぁ…!!素敵ですね…!!
03ウォルト:そうだね。…いつか、空に行きたいな。行って、もっと近くで星を見てみたい。
04フィオナ:ウォルトお兄様、それならば魔法を使っていかれては如何ですか?
05ウォルト:フィオナ、魔法でも限界があるんだ。僕の魔法じゃ、せいぜい雲のあたりまでしか行くことは出来ない。
06フィオナ:それは残念ですね。
07ウォルト:でもね、フィオナ。良いこと教えてあげる。この国のある魔法学校にね…。

【魔法学園アナスタシアに向かう車内】
08フィオナ:……(学校のパンフレットをめくり)…はぁ…。(重いため息)
09フィオナ:この学校紹介のパンフレット…協調性という言葉が何度も使われているのね。

10フィオナ(モノローグ):協調性って何かしら。協調性ってそれほどにも重要なのかしら。

11運転手:フィオナ様、もう間もなく学園に到着いたします。
12フィオナ:えぇ。……(外へと目を向けて)これが都会の景色……家の周りとは全然違うわ。…華やか、というよりも、何だか混雑している感じね。
13運転手:そうですね。

14フィオナ:我がヴァレンチノ家はこの国、イングラム国では有数の貴族。私も幼い頃からヴァレンチノの名前に恥じないように教育を受けてきた。自分で言うのもどうかと思われるかもしれないが、頭も優秀、容姿端麗で気品があると自負している。自分に自信がある、ということは悪いのかしら。だって、事実ですもの。

15長女:フィオナ、貴方は三女なのよ?わかっているの?
16次女:私や、特にお姉様の邪魔はくれぐれもしないで頂戴。ヴァレンチノ家の名を決して汚さないように。わかっているわね?
17フィオナ:……はい、お姉様方。
(二人が去っていき、入れ替わるように現れるウォルト)
18ウォルト:相変わらず、あの二人はぴりぴりしているね。
19フィオナ:ウォルトお兄様…。
20ウォルト:気にすることはないよ、フィオナ。さ、美味しい紅茶を手に入れたんだ。一緒に飲もう。
21フィオナ:……はい。

22フィオナ(モノローグ):ウォルトお兄様はいつも私に暖かい手を差し出してくれた。
男の世界は私の世界よりもつらい世界なのだろう。長男や次男と言葉すら交わしたことのないお兄様の境遇は自分に似ていた。だからそばにいて楽しかったし、ずっと一緒にいたいと思った。「三番目」でも良い。
彼と同じ「三番目」なら。

23フィオナ:(少し泣きそうに)ウォルトお兄様…。
(切り替え、自分に言い聴かせるように)……駄目よ、もう泣いてはいけないわ。今日から私は……この学園の生徒になるのだから。

【到着した車、扉を開けるアグネス】
24アグネス:おはようございます。フィオナ・ヴァレンチノさん。さぁ、車を降りて。魔法学園アナスタシアにようこそ、フィオナさん。私はアグネス・シフォルスト。あなたの担任です。
25フィオナ:アグネス…先生。
26アグネス:さぁ、車を降りて。学園を案内します。

(アグネスとフィオナ、歩きながら)
27アグネス:魔法学園アナスタシアについては…?
28フィオナ:イングラム国では中の下、良くて中の中といったレベルの学園。
29アグネス:(少し苦笑いで)…正解。(以下モノローグ)…そんな学園にヴァレンチノ家の人間が入学するなんて、どうしてなのかしら…。確か、ヴァレンチノ家の三男、ウォルト・ヴァレンチノさんが亡くなったのが半年前…。そのことに何か関係があるのかしら。

(突然、突風が吹く)
30女子1:きゃあっ!
31女子2:きゃっ…!!
32フィオナ:!!きゃあっ…!
33アグネス:(平然と)あら、突風。スカートは大丈夫?今日は風が強いのね。早く校舎に入りましょう。
(去っていく二人、追いかけるようにやってくるニーナ)
34ニーナ:白いレース……綺麗。


35フィオナ(モノローグ):お兄様は夜空を見るのが好きだった。晴れた夜、屋敷の屋上から天体望遠鏡を用意して夜空を眺めていたことも何度もある。彼は口癖のように言っていた。

【冒頭と同じ、3年前】
36ウォルト:いつか、空に行きたいな。行って、もっと近くで星を見てみたい。
37フィオナ:ウォルトお兄様、それならば魔法を使っていかれては如何ですか?
38ウォルト:フィオナ、魔法でも限界があるんだ。僕の魔法じゃ、せいぜい雲のあたりまでしか行くことは出来ない。
39フィオナ:それは残念ですね。
40ウォルト:でもね、フィオナ。良いこと教えてあげる。この国のある魔法学校にね…。
41フィオナ(モノローグ):お兄様は最後にこう言って話を終えた
42ウォルト:でも、あの学校は女性しか入れないんだって。僕じゃ無理なんだ、残念だよ。
43フィオナ:まぁ、そうなのですか…。それならば、お兄様。私が…私がお兄様を…。

(教室内に響くチャイム)
44フィオナ:(目を覚ます)!…いけない。お昼御飯を食べて少し寝てしまっていたのね…。食べた直後に寝ると、太ってしまうと家の人たちには言われているのに…。…クラスメイトには気付かれていないかしら…。

45フィオナ:………女性ばかり。女子校なのだから、当然よね…。どんな学校生活になるのかと思っていたけれど、あまり家とは変わらないわ。最初に会ったときから…。

46女子1:ねぇ、フィオナさん。あなた、ヴァレンチノ家の三女なんでしょう?
47フィオナ:えぇ、そうよ。だから、喜びなさい。あなたたちみたいな平民が、私と同じ空気を吸って学校生活を送れるなんて神様がかわいそうなあなた達に与えたご褒美よ。後世まで語り継ぐと良いわ!!

48フィオナ(モノローグ):私はただ本当のことを言っただけなのに。どうして避けられなければいけないの?平凡な人間にはわからないものね。
49フィオナ:…はぁ。
50アグネス:あぁ、いたわ…フィオナさん。
51フィオナ:アグネス先生…。
52アグネス:少し話があるの。ねぇ、フィオナさん。そろそろ、ペアを組む人を決める時期だと思うの。
53フィオナ:ペア?
54アグネス:そう。この学園は協調性を重視しています。だから、この学園で学ぶほとんどの魔法が協力魔法。つまり、誰かと協力しないと成功しない魔法が多いの。わかるわね?
55フィオナ:わ、わかっています…わ。私だって、ペアを組まないといけないことぐらい…!!けれど…!!このクラスの人たちは平凡な人たちばかりで、私には不釣り合いなのよ!!
56モニカ:ちょっと、フィオナ!!あんたねぇ!!そういう性格だから、誰もあんたに近寄らないのよ!!
(遠くで叫んだモニカが近づいてきて)
57モニカ:わかってるの!?フィオナ。あんたが私たちが平民、私は貴族なんてお高くとまってるからそうなるのよ!!
58フィオナ:わ、私を呼び捨てにするなんて…あなたたち平民にっ。
59モニカ:あんただって同じ人間じゃない!!どういう育て方をされてきたか、知らないけれど!貴族が何よ!!そんなに偉いの!?
60女子1:モニカ…。
61女子2:でも、その通りよね…。
62女子3:何言ってるの!ヴァレンチノ家はこの国有数の貴族…。
63女子4:彼女、三女でしょ?どうしてあんなに偉そうなのかしら…。

64フィオナ:わ、私は…ヴァレンチノ家の…。

65フィオナ(モノローグ):三女。三番目の娘。
大事なのは長女。優秀な長女。次は次女。美しい次女。
三女なんてその次。優秀だけれど長女には勝てないし、綺麗だけれど次女にはかなわない。

66アグネス:やめなさい、モニカ!!あなたは何ですか?正義の味方にでもなったつもり!!?あなたに彼女をそんな風に言う権利はあるの!!?
67モニカ:でもっ、皆が迷惑しているのよ!?
68ニーナ:皆って、誰のこと?
69モニカ:え?
70ニーナ:皆…って、誰のこと?
71モニカ(モノローグ):…ニーナ…どうして?クラスの皆、そう思っていたんでしょう?
だから、彼女に声なんてかけなかったんじゃないの?
私は皆を代表して言ってあげたのに…!!
72アグネス(モノローグ):ニーナ…。学園で学年を越えて歴代トップの成績をたたき出した生徒…。けれど、物静かで…いつも他の生徒とは一線を引いているように見えたけれど…。

73ニーナ:教えて。
74モニカ:何?あなたは違うって、言いたいの?ニーナ。
75ニーナ:……そう。わたしは…違う。わたしは…迷惑、していない…から。
76モニカ:どうして?…彼女が貴族だから?
77ニーナ:…違う。
(ゆっくりと近づいてくるニーナ)
78ニーナ:わたし、あなたと組みたい。
79フィオナ:!!?
80モニカ:ニーナ!!?
81ニーナ:ダメ?
82モニカ:あ、あなた…!!何を考えているの!?今の組んでいる人とはどうするの!!?
83アグネス:あら、モニカ。あなたは知らないの?ニーナの相手、サラ・ブランシュは協力魔法の全てを会得した為、今後はソロ魔法の勉強に専念するそうよ。
84ニーナ:ダメ?
85フィオナ:……あ、あなた…私と、組みたいの?
86ニーナ:…そう。
87フィオナ:…し、…仕方、ないわね!!組んであげても良いわよ!!?あなたがそこまで言うのなら!!
88ニーナ:それじゃあ、わたしたち……ペア、ね?
89フィオナ:そうなるわね。私はフィオナ・ヴァレンチノとペアを組めることを光栄に思いなさい。ニーナ・オリオール。
90ニーナ:……うん。