STELLA (2)

01アグネス(モノローグ):フィオナとニーナがペアを組んだ。めでたしめでたし、と思うところが教師なのだろうか。けれど、フィオナがそうであったように、ニーナも一筋縄ではいかないタイプだ。

02アグネス:あら、モニカ、腑に落ちない顔ね?
03モニカ:だって…。私、あの子が嫌いよ。貴族ってだけで、えばっちゃって。
04アグネス:…そうねぇ。たしかに、この学園のどこが面白くてヴァレンチノの人が入学したのか、私にもわからないのよ。ヴァレンチノの人たちもただ事務処理をするだけで、何も教えてくれなかったし…。あんな事故があった後だから、気分転換に、とでも思ったんじゃないかしら。
05モニカ:(不満そうに)……。
06アグネス:ねぇ、モニカ。私も鬼ではないから、あなたの願いも少しは叶えてあげようと思うの。
07モニカ:どういうこと?
08アグネス:ふふっ、だからね。

09アグネス(モノローグ):これは教師としての役目もあるが、個人的な思いもある。
教師だって聖人というわけではないのだから、身内が可愛くて何がいけないのだろう。
ちょっとぐらい、手を貸してあげても良いわよね。

【昼休み、本を読んでいるフィオナ】
10アグネス:フィオナさん。…あら、協力魔法に関する本を読んでいるの?昼休みなのに、勉強熱心ね。
11フィオナ:えぇ…まぁ…。
12アグネス:ねぇ、フィオナ。せっかくペアになったのだから、さっそくニーナと試してみない?
13フィオナ:試す?何をですか?
14アグネス:協力魔法は頭で理解することも大事だけど、実践が大事よ。回数を重ねて、お互いの信頼を深めていくことが大事なの。あなた、ニーナのことは?
15フィオナ:…名前と出身は…。
16アグネス(モノローグ):やっぱり…。彼女、このクラスの生徒の名前と出身を覚えていたのね。あのとき、誰も彼女をフルネームで呼んでいなかった。
モニカだって、成績優秀とはいえ、同じクラスの彼女をいつもの調子で呼び捨てている。

17モニカ:ニーナ。

18アグネス:そう呼んでいたのに、彼女はあの時に言ったのだ。

19フィオナ:ニーナ・オリオール。


20フィオナ:放課後の屋上に呼び出すなんて…ここで練習をするのですか?
21アグネス:そうよ、フィオナさん。
22フィオナ:…わかりました。…それで…アグネス先生、どうしてモニカさんがいるのかしら?
23モニカ:私たちがペアを組んで、あなたたちの相手をするのよ。
24アグネス:私とモニカは姉妹なの。ペアじゃなくても、協力魔法は使えるのよ。それじゃあ、始めましょうか。
25モニカ:ルールは簡単よ、このペイント弾をぶつけあうの。投げるのは私とフィオナ。残りの二人は防御をするの。自分だけ守るのも良いけれど、それじゃあフィオナが汚れちゃうわよ?
26ニーナ:……協力魔法。包み込む聖母の腕を…使う。
27アグネス:正解よ、ニーナ。さぁ、始めましょう。
28フィオナ:ちょ、ちょっとお待ちなさい!!ペイント弾ですって!!?何よ、それ!!私が汚れてしまうでしょう!!?
29モニカ:大丈夫よ、お貴族様。手加減はするから。
30フィオナ:!!!!

31フィオナ:ニーナ!!私を全力で守りなさい!!良いこと!!?
32ニーナ:…わかってる。私たち、ペア、だから。
33フィオナ:よろしい、それじゃ…いくわよ…!!

34フィオナ(モノローグ):ボールはテニスボールくらいだし、それほど重くはない…。これなら私でも勝負が出来るわ。

35ニーナ:包み込む聖母の腕…!!
36アグネス:包み込む聖母の腕…!!

(魔法開始の合図、鈴の音が響く)
37モニカ:鈴の音…魔法の時間の始まりよ。さぁ、いくわよ、フィオナ…!!(投げながら)
38フィオナ:きゃっ…!(投げられるボールに驚いて)…あ、当たらなかったわ…。(少し安堵したあと、気を取り直して)…残念だったわね。私は、手加減しないわよ…!!
39モニカ:(フィオナのボール、的外れな方向に飛んでいく)ちょっと、どこに投げてるのよ、フィオナ?何よ、そのコントロール!!なめてるんじゃないの!!?
40フィオナ:なっ…し、失礼ね…!!
41アグネス:フィオナさんは運動が苦手だったわね。
42ニーナ:……。
(繰り返す球が投げられる音)
43モニカ:あなた、さっきから一度も私を守る魔法の壁に当ててないんだけど?
44フィオナ:う、うるさいわね…!!これから当てるわよ…!!
45モニカ:さぁ、それは…どうなるかしら…!!
46フィオナ:あなただって、そうやって投げてもあたら(ないわ)。

(弾ける球の音)

47フィオナ:え…?
48フィオナ(モノローグ):冷たい…?…どう、して…?…服が…汚れてる…?…だって、私はニーナの魔法の壁に守れて…。
49フィオナ:…どう、して…。…!!ニーナ!!!!
(ニーナを見て気付く)…!!?魔法をやめてる…!!?!!?あ、あなたっ、どうして…!!何をしているの!!?
50ニーナ:………疲れたの。
51フィオナ:えぇっ!!?
52モニカ:あらあら、壁がなくなっちゃったわよ?フィオナ・ヴァレンチノ!!!これじゃあ、汚れちゃうわね…!!
53フィオナ:(次々とあてられる球に)い、いや、汚れ…汚れる…!!…ニーナ…!!あなた…私を裏切るの!!!?
54ニーナ:………。
55フィオナ:あなた、私とペアを組んでいるんでしょう!!!?
56ニーナ:………。
57フィオナ:こた…答えなさい!!ニーナ・オリオール!!
58ニーナ:………疲れたの。これ以上、あなたのために疲れて…何になるの…?
59フィオナ:!!!?
60ニーナ:あなたの動きに…ついていくのは大変。…あなたが…わからなくなった…。あなたの…姿が見えない。

61フィオナ(モノローグ):何…どういう、こと…?…疲れたからこれ以上魔法を続けたくない…ということ…?やりたくない、ということ…?


62フィオナ:……冗談…冗談じゃ…ないわ…!!

63フィオナ(モノローグ):私にはやるべきことがあるの。やりたいことがあるの!!
その為に、ペアと仲が悪いとか、そんな理由で…!!
立ち止まっているわけにはいかない。この学園に入学しようと決めたときから、どんな困難も耐えなければと心に決めた。平民と貴族は違うのだから。

64モニカ:!!?なっ、フィオナ!!?(驚いて)突然服を脱いで、一体…。
65アグネス:!!?
66フィオナ:(大声で)…ニーナ・オリオール!!!!
67モニカ:あのフィオナが…下着…姿で…。(呆気にとられて)
68フィオナ:私がわかるわね!!!?
69ニーナ:……。
70フィオナ:答えなさい!!ニーナ・オリオール!!
71ニーナ:…わかる。
72フィオナ:ヴァレンチノ家の私がここまでしたのだから、あなたも全力で私を守りなさい!!良いこと!!?
73ニーナ:…………。
74フィオナ:返事は!!?
75ニーナ:……わかった。…でも…その姿を…他の人に…見られるのは、いや……だから。
76アグネス:!!ニーナ・オリオール!!ルールを破るの!!?
77ニーナ:破ってはいないの。…だって、言ってなかった。私も、攻撃しちゃ…だめ…って。…地に降り注ぐ雨。
78アグネス・モニカ:きゃああ…!!

79ニーナ:……私たちの、勝ち?
80フィオナ:…勝ちね。…けれど、これはやりすぎよ。ニーナ。
81ニーナ:(照れたように)………。

82モニカ:信じられない。魔法を魔法で…さすが、ニーナね。
83ニーナ:……。
84モニカ:あなたもやるじゃない。
85フィオナ:あら、当然よ。だって私はヴァレンチノ家の人間だもの。勝つためにはどんな手段だって問わないわ。
86モニカ:……そう。
87ニーナ:モニカ。…フィオナ、だめ…。
(ニーナ、背後からフィオナの胸に触る)
88フィオナ:!!!?
89モニカ:!!?
90ニーナ:……柔らかい。
91フィオナ:な、なななななな…!!
92モニカ:に、にににニーナ!!!
93フィオナ:ちょ、ちょっと、離れなさい、ニーナ!!というか、私の胸から手を離しなさい!!
94ニーナ:いや…。
95モニカ:ニーナ!!同じクラスメイトとして、見過ごせないわ!!
96ニーナ:……フィオナ…私…の。

97アグネス:元気になったようで良かったわ。……今度は、両想いになると良いわね。ニーナ。