STELLA (3)

(大雨の降る教室内)
01ニーナ(モノローグ):別れは突然だった。
02サラ:ペアを解消しましょう、ニーナ。

03サラ:私は全ての協力魔法を会得できた。あなたのお陰。あなたには感謝している。けれども、それで終わり、とはいかないの。まだまだ会得しなければいけない魔法が沢山あるの。私は…私の夢は、この国を守る軍に入ることだから。

04ニーナ(モノローグ):どこまでも彼女の夢は気高く、輝き、決意は固いものだったから。
05ニーナ:……頑張って、サラ。
06ニーナ(モノローグ):そう言って、ペアを解消してあげることしかできなかった。

07アグネス(モノローグ):フィオナ・ヴァレンチノとペアを組んで一ヶ月が経つ。
英才教育を受けてきた彼女は協力魔法を次々と会得していた。
ニーナは一度全ての協力魔法の会得をしていたのだから、あとは二人の呼吸だけが問題。
フィオナは少し自分で突っ走ってしまう傾向があるらしく、時々呼吸があわなくなる。
不発、失敗なんて日常茶飯事だけれど、フィオナは何とかニーナの呼吸を知ろうとしているようだった。

08ニーナ(モノローグ):そういえば、貴族の彼女が何故この場所にいるのだろう。
例えば、彼女の姉たちが通っていたのはこの国でも有数の国立学校。
それがどうして…彼女は「平民が通う」女子校に入学してきたのだろう。
アグネス先生もそれは知らないと言っていた。気分転換とでも考えているのではないか、と彼女は言っていたが本当にそうなのだろうか。

09フィオナ:ニーナ!!!
10ニーナ:!?フィオナ。
11フィオナ:まだ教室にいたのね!!?今日は昼休みも練習をしようって言ったでしょう!?
12ニーナ:……あ…。
13フィオナ:あ、って何よ!!…まさか、あなた…!昼食もとっていないわけじゃないでしょうね!!?
14ニーナ:……。
15フィオナ:…呆れた。仕方ないわね、食堂に行くわよ!!
16ニーナ:……。
17フィオナ:何よ。
18ニーナ:フィオナ、食堂は嫌いなんでしょ?
19フィオナ:え。
20ニーナ:だって、前に……平民が、いっぱい…いるから。嫌い、って…言ってた。
21フィオナ:……し、仕方ないでしょ!!!お腹を減ったまま、練習なんて出来ないでしょ!!?我慢して、付き合ってあげるわ!!光栄に思いなさい、ニーナ・オリオール!!!
(言いながら去っていく二人を見守るアグネス)
22アグネス:ふふっ…。不器用という点では、二人は少し似ているわね。

(二人がやってきた混雑する食堂)
23フィオナ:相変わらずここは人が多い(言葉の途中でぶつかり)きゃっ!
24サラ:ごめんなさい。…あら……ニーナ…?
25ニーナ:……サラ。
26サラ:久しぶりね。元気だった?何だか不思議。ペアだった時は毎日会っていたのに…ちゃんと会うのは解消して以来ね。
27ニーナ:…そうね。
28フィオナ:……。ほら、ニーナ!こんなところで油を売っている暇はないでしょう!!?早く食べないと、昼休みが終わってしまうわ!!練習が出来ないでしょう!!?
29ニーナ:そ、そうね。
30フィオナ:せっかくお会い出来ましたのに、残念ですわ。サラさん。
31サラ:良いのよ。あなたがニーナの新しいパートナーね。ニーナは良い子でしょう?
32ニーナ:………。
33サラ:わかるの。私はニーナのパートナーだったから。
二人で何でもわかちあって、練習も頑張って。
34ニーナ(モノローグ):増える魔法に喜んで…けれども、わかちあえないこともあった。
例えば気持ち。サラは私を妹のように大切に思ってくれていたけれど、私と同じ気持ではなかった。

35フィオナ:ほら、パスタよ。ここでは一番人気があるメニューなのでしょう?有難く思いなさい、私が運んで来てあげたのだから…。
36ニーナ:……。
37フィオナ:(フィオナ、ニーナの向かいに座り)…。ねぇ、ニーナ。…サラは…。
38ニーナ:え。
39フィオナ:…いいえ、良いの。
(静かに食事する間)
40フィオナ:……私はね、ヴァレンチノ家の人間なのよ。
41ニーナ:…知ってる。
42フィオナ:そんな私が、どうしてここにいるかわかるかしら?
43ニーナ:………わからない。
44フィオナ:あなたはステラ、という名の魔法を知っているでしょう?

45ニーナ(モノローグ):ステラ。久しぶりに聴く名前…。
ステラはこの学校で学ぶ協力魔法の一つ。
この学校の「伝統」とでも呼べる魔法の一つで、この学校の「協調性」を示す魔法。

46ニーナ:……二人の体を浮遊させる魔法。浮遊は二人の協調に応じて、高くなって…。
47フィオナ:空まで浮遊することが出来る魔法。現存する魔法で一番空に近い場所にいける協力魔法よ。…私がお兄様に教えていただいて…知った魔法。(フィオナ、銀のカプセルを取り出して)……。
48ニーナ:ペンダント…?…トップがカプセルになってる…。
49フィオナ:私は…約束したの。だから…ステラで星空に行かなければいけない。その為にはどんな困難も耐えてみせる。そう決めたのよ、私は。
50ニーナ:………そう。

51ニーナ(モノローグ):それじゃあ、約束を果たしたら貴方はどうするの?
そう思ったけれど、口にはしなかった。別れはいつだって突然訪れるものだ。
サラの時だってそうだったし、自分の想いが伝わることがとても難しいことだとは理解している。
だから、無理に伝えようとは思わない。
彼女と今、築いている関係だって私にとってはとても大切なものだから。

53ニーナ:……私、頑張る。
54フィオナ:……。